10 | janvier
キスの味 200
「中学のときから思ってたけど、あなたってほんと息クサいよね」
「うるせぇ」
西陽で光る閉じた校門の外で、黒の袴と赤い振袖が濃厚なキスをしていた。
ぶちゅっ、ぶちゅっ、ぷはあ。
「どうしたら、そんなに息クサくなれるのよ」
「そんなに?」
「なんかね、ザリガニがひっくり返ったドブの匂いがする」
「そんなにクサいなら、やめる?」
「ううん、続けてっ」
ファーストキスは、レモンの味。
愛情はザリガニがひっくり返ったドブの味。
à bientôt…… #10(102)
9 | janvier
風呂上がり 200
「頭乾かさないと、かぜ引くよ」
「イヤッ、めんどくさい、帰る!」
「こらっ、わがまま言わないの」
スーパー銭湯で、男湯に入れる年齢の娘と父の言い合いを横目に脱衣室から出ようとすると、急に指さされた。
「でも、でも、でも! あっ! あのお兄ちゃんも頭乾かしてない!」
「こらっ。すみません。もう、他の人に指ささないの! よそはよそ、うちはうち」
「いやだあああ」
えっと、スゥー……
壁際のドライヤーで入念に乾かして帰った。
à bientôt…… #9(101)
8 | janvier
現場の人たち 250
あなたはなんで働くのですか。
「細かいこと考えなくて済むし、うん、すごく楽なんだ」
「給料は良いからな、これで欲しいもん全部買うたんや」
「週末のおっパブのためや。おっぱいは夢そのもの。それだけでわしは何度だって働ける——ほら兄さん見てみこの子、形もボリュームも最高じゃ」
「毎日働く、それだけで周りに認めてもらえる。今までそんなの経験して来なくて、初めてで嬉しかった。警察にはぎょうさんお世話になった、親にも迷惑かけた。自分は変われたんだって、20年経って、ようやく思えた」
あなたはなんのために働きますか。
à bientôt…… #8(100)
7 | janvier
パールのイヤーカフ 200
「耳くそついてるよ」
「え、待って、、、」
夜の公園、背後のベンチで肩を寄せ合うカップル。
「あ、イヤリングか、耳の穴につけるんやね」
「はあ? これイヤーカフって言うの、アコヤパールの! お気に入りなのにそんな言い方、、、そうだよねこんな暗がりで見えるわけないよね納得、てか待ち合わせで気づいてよ!」
「ん〜? 近づかないとよく見えない」
ちゅっ
「それで許すって……思わないでよ……」
ちなみに明日は雪が降るそうです。
à bientôt…… #7(99)
6 | janvier
ロマンスの角に小指ぶつけただけ 200
かなしい。
夜景も、ロマンス映画も、とにかくかなしい。
うっかり想い人に電話をかけてしまった。忙しいと知っているのに。
コール中に切られた。余計にかなしい。
普段しつこく迫ってくる人から、電話がかかってきた。どれだけ他の同性より魅力的か熱弁していた。切った後の無言が底なしにかなしい。
友だちからLINE。ふつうに返信した。
「元気ないけど、なんかあった?」
ロマンスの角に小指をぶつけただけ。
少し泣いていただけ。
à bientôt…… #6(98)
5 | janvier
受け取り方 200
サウナでテレビを囲む私と大学生2人組。
女性スカーフの是非をめぐるイランの抗議デモが報じられていた。
「イランって女性差別ひどいらしいよ」
「へえ」
「たしか、髪の毛出したらダメやなかった」
「顔見れんとか、どうやって恋愛すんねやろか」
「体の相性じゃね?」
「それだわ、さすがお前頭良いな!」
制作者は画面の向こうでこんな会話が繰り広げられていると知っているのかな。
どうりで、世界の中心で叫んだ愛が届かないわけだ。
à bientôt…… #5(97)
4 | janvier
これがロマンス 200
自宅で『社内お見合い』を観た。ラブロマンスが好き、サスペンスでドキドキするより、画面の中のロマンスでキュンキュンしたい。
私は大抵ヒロインの友だちに感情移入する。今回はヨンソに魂を預けた。コンビニ前の一目惚れシーンは、ほぼ私が恋を始めた瞬間だった。
気持ちの押し付けは苦手。
だけど、愛情が溢れ出すのは嫌いじゃない。急に電話したり、不機嫌になったっていいじゃない。
観賞後、大好きな人で胸がいっぱいになった。
à bientôt…… #4(96)
3 | janvier
新年早々、悪の花 300
帰省2日目。リビングのテレビには相変わらず『悪の花』が映っている。
新年ならバラエティとか、駅伝とかあるだろうに。なんで、わざわざサスペンス。
『悪の花』を私と母は初見で妹は結末を知っている。
最終話から2つ前の14話。
「犯人はこれだけ罪を重ねたわけだから、すごく凄惨に死なないと割りに合わないと思う。例えばデスノートみたいに黒幕が正義側を死ぬ直前まで追い込むけど、なんかの勘違いで土壇場で状況が逆転して、最後は警察に囲まれ銃で撃たれるみたいなさ〜」
妹と目が合った。無言でギョッとしていた。
15話、言った通りのシナリオだった。キモいキモいと連呼された。
そんなことより、ジャケット姿のジウォンに釘付けだった。
à bientôt…… #3(95)
2 | janvier
帰省 200
「お風呂まだー?」
「お父さんが入ってるー」
ああ、そう。
リビング正面50インチのテレビに映る『悪の花』をぼーっと観る。
すっと妹が動き出した。
——しまった、出遅れた。
5年前はこの光景が当たり前だった。今や一人暮らし5年目、生活力は上がった、家事も何だってやる。次に同居するとしたら恋人かな、なんて幸せな光景。
「お風呂まだー」
、、、
ん?
時計は23時の5分前、お風呂場は真っ暗だった。
同居が少し下手になった。
à bientôt…… #2(94)
1 | janvier
あけおめ2023
今年も年賀状もどき書きました、よければどうぞ。
みなさまはどんな年明けでしたか?
私は各所にあけおめメールを送ったり、大掃除の残りを片付けたりと落ち着かない1日でした。
改めてたくさんの人と繋がりながら生きてるんだと実感しました。
普段テレビはオブジェですが、格付けチェックだけは毎年観てます。
今年も新年早々、たくさん笑わせてもらいました。
昨年はたくさんの素敵なご縁があった年でした。引き続き私のことを温かい目で見守っていてください。
2023年は画面の向こうの皆様に素敵な出逢いが訪れますように。
今年もよろしくお願いします。
à bientôt…… #1(93)